土曜ワイド劇場の明智小五郎
その1・天知茂

[最終更新日:1999/10/24]

 江戸川乱歩が生んだ日本一の名探偵・明智小五郎。その明智は、映画、TV、舞台などで数多くの俳優が演じてきました。しかし、どうも決定打というのがありませんでした。乱歩自身は明智を「講談師の伯竜の若い頃によく似てい」たと記録しています(『うつし世は夢』80ページ、江戸川乱歩推理文庫・第60巻)。しかし講談師の伯竜といわれても、私などはピンときません。やはり、明智小五郎と聞いて思い描くのは、明智を演じた俳優の顔でしょう。その中でも決定打といえたのは、天知茂が演じたところの明智小五郎ではないかと私は考えています。

 本当のところ、天知茂の明智は、講談師の伯竜をイメージしたという原作の明智とは全然異なります。一部のウェブサイトでは、天知茂の明智小五郎を「最悪」と断じています。しかし大方のイメージとしてまったく違和感を感じさせず、かえって「これぞ明智探偵」というイメージを植え付けたと思います。石坂浩二における金田一耕助のように。

 天知茂が初めて明智小五郎を演じたのは、極めつけとなった土曜ワイド劇場ではなく、『黒蜥蜴』の舞台でした。昭和52年8月20日に土曜ワイド劇場の第1作『氷柱の美女』が放送される9年前の昭和43年4月、三島由紀夫脚色、松浦竹夫演出、丸山(現・三輪)明宏主演の舞台劇『黒蜥蜴』の明智小五郎を天知茂が演じていたのです。舞台ですからもう見ることはできないと思いましたが、同年5月12日、19日にNTVにおいて舞台中継されています。VTRが残っていれば見たいものですが……。

 さて、この舞台における天知茂のキャスティング、これを行なったのはいったい誰なのか。前から気になっていたのですが、ひょんなことから判明しました。美輪明宏が「スタジオ・ボイス」昭和61年12月号に書いた『柘榴石(ガーネット)の秘密・紅玉(ルビー)の傲慢・孔雀石のアンドロギュネス』という文章の中に、記されていたのです。

 最近でも黒蜥蜴を演じた美輪明宏が書いたこの文章の中で、明智小五郎のキャスティングについて、こう触れられています。

 理想の明智小五郎っていうのは、とてもむつかしいですね。「黒蜥蜴」の舞台の相手役だった天知茂さんは、三島さんのキャスティング。映画の「四谷怪談」や「地獄変」で、とても気に入ってらしてね。映画「黒蜥蜴」で共演した木村功さんは松竹側で決めたキャスティング。どちらにも、私の意見は入ってないんです。
 ……(中略)……
 私のイメージからすると、明智小五郎っていうのは、そうね、背格好からいくと、野球やめた江本? 江本孟紀さんがぴったりですね。背の高さ体つきはこの人だってはっきりしているんですが、あと顔は……頬骨が張っててね、眉毛が太くて睫がいっぱいあって……しいていえば、酔いどれ天使≠フ頃の三船敏郎と宅麻伸や名高達男や神田正輝の優しい甘い感じをミックスした顔、雰囲気。そしてもう一つ付け加えたいのはね、三島由紀夫と松岡正剛の知性。そういう役者さんがいれば、黒蜥蜴をまた是非やりたい。

(新保博久・山前譲/編『乱歩(下)』講談社刊行、225〜226ページより)

 美輪さんのイメージ、というのは複雑すぎて私にはイメージできないのですが、天知茂のキャスティングは三島由紀夫によるもの、というのが驚きです。三島由紀夫は、天知茂のどこに惹かれたのか、気になるところです。

 それから10年。昭和52年に『氷柱の美女』でブラウン管の明智小五郎になった天知茂は、精力的に明智を演じ、昭和60年にクモ膜下出血で急逝するまで、25本もの「美女シリーズ」に主演していきました。

 初期のシリーズは井上梅次が監督。彼は京マチ子主演の大映映画『黒蜥蜴』の監督もしています。また、いくつかの作品では同じく初期作品を手がけた脚本家・宮川一郎とシナリオを共同執筆しています。

 また、このシリーズで、三代目・西郷輝彦にいたるまでの全音楽を担当したのが鏑木創。彼は昭和44年の映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』や、あおい輝彦主演映画『江戸川乱歩の陰獣』でも、その独特の旋律で乱歩作品を彩っています。土ワイの主役が西郷輝彦に代替わりしたときは設定の変化からか音楽が軽くなりましたが、特に初期の頃はその独特なサウンドが、天知茂の明智とマッチして「ああ、乱歩の美女シリーズだ」という思いをかきたてたものでした。個人的には、土ワイの明智小五郎・江戸川乱歩の美女シリーズのサウンドトラックが出ないものかと思っているのですが……近いものとしては、松竹のサントラで『黒蜥蜴』『陰獣』『RANPO(黛バージョン)』の3作品が1枚に収まったサントラに『陰獣』の音楽が収録されています。はっきりいってその部分は、土ワイの美女シリーズのサントラみたいです(一番収録されてほしい音楽は入っていませんが(苦笑))。

 残念ながら、天知茂主演の土ワイの看板シリーズといえる「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、天知茂のクモ膜下出血による急逝で全25作で幕を閉じました。1年後、北大路欣也主演による「妖しいメロディの美女」によって復活を遂げるまで、土ワイでの明智小五郎の活躍はおあずけとなったのです。

土曜ワイド劇場の明智小五郎 その2・北大路欣也