天使が通る
~Un ange passe~
プロローグ
暗黒である。
暗黒魔界の、闇。その、どこまで続くか分からない暗い闇の底から、何やら邪悪な念が発せられている。
青年魔術師は、その邪念に対峙するようにしていた。が、手出しはしない。いや、彼には出来なかった。邪気を、ただ感じることしか出来なかったのだ。まだ、この邪悪に対するには若すぎたのだ。
(ここに、伝説のプリンセスがいたならば……)
青年は、かつて学んだことのある魔法大戦で活躍した「愛と勇気と希望の聖戦士」のプリンセス・ジョアン一世のことを思い起こしていた。彼女が、そして彼女を含んだ八人の聖戦士がいれば、この邪気は払えるであろう。
しかし、この場には、ジョアン一世はいなかったし、それに代わる人物も存在しなかった。
自らの力のなさと、やるせなさとに苦悩する青年だったが、ついに意を決した。
(自分がやるしかない)
青年は、両手で円を作り、右腰にあて、気をため込んだ。その力で邪気を吹き飛ばすつもりなのだ。しかし、闇底から流れ出る邪念は、青年の気くらいでは到底払い飛ばすことはできそうにないほど、膨れあがっていた。
(行きますっ!)
青年は、力の限り大きくした気の塊を、暗黒の邪念に向かって突き飛ばした……その光の球はまっすぐに伸びる筋となり、暗黒魔界の闇の中に吸い込まれていった。
……………………暗転。
その後、青年魔術師はどうなったのか。
そして、邪悪な気はどうなったのか。
* * *
それから数年後。
どこか在りし日の面影のある青年の姿が、魔法の国の王宮内で見られるようになった。国王を守る近衛隊の隊長として。その後、大魔王が国王、王妃を石化して王宮を乗っ取った後、赤子だったプリンセスを引き取り、育てることになる。
その青年魔術師の名は、セラヴィー。世界一の魔法使いである。





